ちょっとデンジャーなアガリスク

先日、キリングループの子会社のキリンウェルフーズに対して厚生労働省→国立医薬品食品衛生研究所が「キリン細胞壁破砕アガリクス顆粒」に対して発癌プロモーション(発癌促進作用)があることを発表した。

ラットを用いた中期多臓器発がん性試験で、発がんプロモーション作用が確認されたということと、遺伝毒性試験の復帰突然変異試験と染色体異常試験も陽性(+、ポジティブ)であるということが判明したため。

ラットを使って毒性試験をするのはコストがかかるけど、遺伝毒性試験なんか低コストで簡単にできるだろうに。なんでこれを省いたのか。馬鹿だねぇ。。

そもそもアガリスクは免疫力を高めるという点で注目されていたけれども、毒性試験という点ではほとんど研究されていない。免疫力を高めるっていってもたかが知れてるわけで、たいした効果はない。癌が完治するわけでもないし。キリングループと協和発酵グループ・バイオベンチャーである応微研という名だたる企業が食品健康影響評価を食品安全委員会で受けるはめになるというこったらミスを侵すのはみっともないな。

というわけでアガリスクを過大評価・過剰広告してきた人達は科学的立証検証を元に発癌プロモーションの作用を追及して論文にまとめるべき。これはむしろチャンスであって、ここから大きな発見があるかもしれない。昔、大学で冬虫夏草の研究をしている人のプレゼンを何度か見たことあるけど、これも癌の抑制という点で動物実験レベルではなんらたいした効果がなかったなぁ。

そういや、薬事法の関係かなんかでネットで漢方薬とか健康食品とか申請しないと販売できなくなるっていうコラムを読んだ事あるけど、健康食品を扱っている人達は要注意だね。

コンサルタントについて

世の中には,コンサルタントと呼ばれている人がたくさんいます。経営コンサルタント,建設コンサルタント,ブライダル・コンサルタント,カラー・コンサルタント…。コンサルティングは,クライアント(コンサルティングの依頼者のこと。クライアント・パソコンではありません)がいれば成立するので,非常に原始的で素朴な仕事だといえます。

「わからない」と認めたくない

では,なぜクライアントは高い報酬を支払ってまでコンサルタントを雇うのでしょうか? それは,クライアントが,自分では決めかねている,あるいは解決できない重大な問題を持っているからです。複雑な状況に対処し切れずに混乱しているので,相談相手になってくれる人を求めるのです。人間はおもしろいもので,わからないという事実を認めたくないものです。そして,そこに心理的な落とし穴があります。自分に都合の悪いことは,あいまいにしておきたい誘惑に負けてしまう。


「わからない」を「わかる」に変えるには

コンサルタントは,わからないことに真正面から取り組まなければなりません。例えば,システム開発のケースで考えると,クライアント自身が,どんなシステムを開発したいのか,何の効果を期待しているのか,わからないことが多いようです(プログラマに対して,決してそんなことを言いませんが…)。わからないまま,とりあえず開発を始めてしまうから,出来上がってから,こんなはずじゃなかったと,仕様変更が多発してしまうのです。

そんな悲しい結果にならないようにコンサルタントは,まずクライアントに,わかっていることと,わからないことを区別させます。そして,わからないことのうち,重要な部分についてわからせようと努力します。コンサルタントは,わからないことを,わかるに変えるためにいくつかのノウハウを持っています。それを紹介しましょう。

(1)わからないことをハッキリさせる
バカバカしいと言えば,バカバカしいノウハウですね。でも,重要なんです。クライアントに対して,「あなたは,○○をわかっていない」と言わなければ,コンサルティングはスタートしません。顧客であるクライアントに「あなたは,バカだ」に近いことを言うわけですから辛いですし,プレッシャーも感じます。

しかし,クライアントとコンサルタントの共通目標をハッキリさせ,運命共同体であることを確認するためには不可欠なアクションです(儀式と言えるかもしれません)。もちろん,コンサルタント自身も,解決策がまだわかっていないのですから,一緒にスタート地点に立ったにすぎません。

(2)わからないことを分解し,定義する
わからないことは,たとえ一言であっても,一般に複雑であり,交錯しています。例えば,電機部品の卸売業のシステム部長から次のような相談を受けたとします。

システム部長:社長からホームページのアクセス数が少ないとの指摘を受け,その改善策を考えなければなりません。私は,システム・エンジニア経験は長いのですが,コンテンツや広告宣伝の知識はあまりありません。アクセス数を増やすにはコンテンツの充実が必須と考えています。この方向で良いのでしょうか?

あなたは何と答えますか。効果がありそうな方法をいくつか考えて,並べ始めるかもしれません。しかし,コンサルタントはその前にクライアントに次のような質問をして,わからないことを徹底的に明確にしていきます。

コンサルタント:アクセス数とは何でしょう。ホームページのトップ・ページに来た人の数でしょうか? それとも,その先にある商品紹介や会社概要まで見た人の数ですか? それとも,ホームページ内に3分以上留まった人の数ですか? 次に,アクセス数が多いという状態はどういうことですか。1日に1000人以上の人が来訪することでしょうか? それとも,ライバル会社よりもアクセスする人が多いということでしょうか? 次に,なぜアクセスが少ないとわかったのでしょうか,自分で調べたのでしょうか,調査会社に委託したのですか,その数値の信頼性はあるのでしょうか? 次に,アクセス数が増えるだけでよいのでしょうか,その後に何か期待していませんか? インターネット経由の売上額増大など,本当に欲しいものはほかにあるのではないでしょうか? そのためには,アクセス数が単に多いのではなく,見込み客のアクセス数を増やさねばならないのではないですか?

など,クライアントが「勘弁してくれー。そこまでは考えていなかった」と言うまで質問ぜめにします。何がわからないことかがハッキリしないと,解決策がぼんやりしたものになり,結果が出ないからです。また,考え出した解決策を実施した後に,効果的だったのかどうかを評価するのも,あいまいになってしまいます。

(3)アイデアをとにかく多く出す
わからないことがハッキリしたら,次は解決策の候補をできるだけ,たくさん出します。ホームページのアクセス数の例で言えば,(1)サーチ・エンジンに引っかかりやすい言葉(よくサーチされる言葉)をホームページ内のどこかに入れる。(2)リンク集などに自社のホームページのURLを入れてもらう。そのために相互リンクを張る。(3)ユーザーを目線を引くコンテンツを入れる。メール・マガジンを始める。動画配信を入れてみる。(4)懸賞やプレゼントなどのインセンティブをつける。(5)営業担当者が得意先を訪問した際にホームページを見てくれるように依頼する。(6)紙の商品カタログの構成を変えてホームページに誘導しやすくする。(7)サーチ・エンジンにバナー広告を載せる。(8)テレビ・ラジオ・雑誌・店舗内放送の宣伝でURLを強調する。(9)期間限定の激安・原価割れの販売をホームページ上でする。(10)ホームページで会員登録をしてもらい,会員にはメールでホームページを見たら得をすることを定期的に訴える,…などです。

私は100という数字にこだわりを持っています。解決策も100個は考えたいですね。少なくとも20〜30個は出したいところです。解決策の「候補」を考えるときには,それが実現可能かどうかは,いっさい考慮しません。荒唐無稽であろうと,無茶苦茶であろうと気にしません。数をひたすら求めます。ここがコンサルタントのがんばりどころです。

(4)アイデアを三つ程度に絞る
イデアがたくさん出たら,わからないことと,アイデアのベストな組み合わせを考えます。

ここまで読んでいただいてわかるように,コンサルタントの仕事って,とっても地味なものなんです。スーパーマンが目の前の問題をズバッと解決する,なんてなことは,まずありません。地道にコツコツやっていくだけです。ただし,問題解決のために考え出すアイデアの量は,素人が考えるよりもはるかに多く,それがコンサルタントの腕の見せ所になっているわけです。

パキシルの効果

グラクソ・スミスクライン株式会社(社長:マーク・デュノワイエ、本社:東京都渋谷区、以下GSK)は、1月23日付で抗うつ剤パキシル錠 20mg」、「パキシル錠10mg」(一般名:塩酸パロキセチン水和物)が強迫性障害の効能・効果を取得したことをお知らせします。

強迫性障害のおもな症状は不要な考えが心の中に繰り返し起こる「強迫観念」と、それを打ち消すために行われるさまざまな「強迫行為」です。手を何度も洗わずにはいられないとか、戸締まりを何度も確認しなくては気がすまないなど、誰でもたまには経験する行動ですが、それが習慣的かつ非常にエスカレートして生活に支障をきたすほどの状態が強迫性障害です。そして、患者さんが自分の不快な考えについて「こだわりすぎだ」と判断できるにも関わらず、こだわらずにいられないことが特徴です。

強迫性障害の有病率は2〜3%で、総患者数は全世界で5000万人以上であるといわれています。1) また、WHOの報告では、生活上の機能障害を引き起こす10大疾患のひとつに挙げられています。2)

強迫性障害の患者さんの脳内では、健康な人に比べてセロトニンの働きが不足していると考えられています。「パキシル錠」は、脳内のセロトニンの再取り組みを選択的に阻害することで、脳内のセロトニンの働きを高めることにより症状を改善します。強迫性障害に対するパキシルの有効性・安全性を検討する臨床試験(プラセボ対照多施設二重盲検比較試験)においてパキシル群はプラセボ群と比較して有意な改善を示し、本領域の治験では非常に優れた成績をもって承認されました。

パキシル錠」はうつ病うつ状態に加え、多くの不安障害の適応を有するSSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor:選択的セロトニン再取り込み阻害剤)で、世界100カ国以上で承認され、1億人以上の使用実績があります。また1日1回夕食後服用と簡便であり患者さんの服薬の負担を軽減します。

日本においても2000年11月の発売以来「うつ病うつ状態」及び「パニック障害」の治療薬として貢献してきましたが、今般の「強迫性障害」の効能・効果追加により、患者さんのQOL向上により一層寄与することが期待されます。

GSKの社長 マーク・デュノワイエは「パキシル錠は、日本での発売以来、100万人以上の患者さんに使用され、いまでは抗うつ剤のリーディングプロダクトに成長しました。今回新たに強迫性障害の効能・効果を取得したことにより、患者さんにとっての治療の選択肢が増えたことは大変喜ばしいことです。米国における最近の広範な疫学調査によれば、18歳以上のうつ病あるいは何らかの不安障害の生涯有病率は40%を超えていると報告されています。パキシル社会不安障害全般性不安障害、外傷後ストレス障害についての適応拡大も進めており、うつ病および不安障害の治療薬として、より一層患者さんに貢献すべく鋭意努めたい。」と述べています。

自分自身がパニック障害になったときにパキシルを飲んでいた時期があるけれども副作用が半端じゃなくて、レキソタンエリスパンに切換えました。パニック障害だから第一選択薬がパキシルっていうのは正しい判断かどうかわからないけれども、少なくても自分には合わなかった。パキシルが効くセロトニンレセプターは多種類あって、そしてそれらのレセプターも遺伝子構造が多様(個人によって違う)なので全ての人にパキシルが効くとは限らない。よって治療薬の選択肢も沢山あるわけで。。。今飲んでる薬は本当にあなたにとって最良の治療薬ですか?

出 典:
1) Obsessive Compulsive Disorder: a practical Guide 2001
2)Murray CJL, Lopez AD. Global burden of Disease: A comprehensive assessment of mortality and morbidity from diseases, injuries and risk factors in 1990 and projected to 2020, vol 1.Harvard:
World Health Organization, 1996

米国産牛肉輸入問題2(やっぱりな)

輸入再開1カ月、またもや米国産牛肉が停まってしまいました。1月20日、米国か
ら輸入された牛肉の中に、除去されるべき特定危険部位の脊柱の混入が確認された
のです。食関連業界にとっては、ホリエモンショック以上の大きな激震が走りまし
た。

「それみたことか」「やっぱり、輸入再開は早過ぎた」という論調一色なので、
ここでは敢えて、別の見方をしてみることにします。そうでないと、自民党の政策
を闇雲に反対する民主党のようになってしまいます。なぜ、こうしたことが起こっ
たのか、起こってしまったことを、今後に生かすことはできないのか----。今こそ、
冷静な検討が必要なのではないでしょうか。

今回の事件が起こった直接の理由は、当該食肉処理場の従業員が日本市場向けの牛の特定棄権部位を除去するというルールを知らなかったこと。おまけに、その作業をチェックするはずの検査官が、施設に常駐しているにもかかわらず、そのルールを把握していなかったことです。では、なぜルールを守れなかったのか。

私はこう推測します。米国は30カ月齢以下の牛は安全と見なし、特定棄権部位の除去作業がありませんので、「自分たちが安心して食べているものだから、大丈夫」「アメリカにやってくる日本人も、美味しそうにアメリカンビーフを食べているではないか」という甘えがあったのではないでしょうか。

とはいえ、1カ月にしてルールが順守できないとあっては、ルールを取り決めた米国政府の、日本に対する面子が丸つぶれです。ですから、ジョハンズ米農務省長官も「非は我々にある。日本との合意に反する受け入れ難い失敗」と、すぐにミスを認めました。しかし、日本は即刻輸入を再停止し、米国に対して今回の協定違反のてん末と再発防止策についての報告を強く求めました。その報告書がないことには、再々開にも至りません。

やっと事業再開できると準備万端だった外食産業などは、今回の件でまた失意に陥ったことは察するに難くありません。ただ、今回の事件で、敢えてよかったと思うことを挙げるとすれば、日本が食の安全に対して求めているレベルや意味が、米国側は身にしみて分かったのではないかということです。食の安全への見解の相違は文化の違いもあり、なかなか理解し合うことは難しいですが、いったん決めたルールを破れば輸出ができなくなる、ビジネスができなくなる、ということは、大変分かりやすく、良い“薬”になったと思います。“薬”であるなら、早いうちに飲んでおいた方が病気の悪化も防げます。1カ月で今回の事件が起こったのは、むしろよかったのかもしれません。

20カ月齢以下の牛についての安全性は、食品安全委員会で既に科学的な議論をし尽くしているので、今後の日本の姿勢としては、米国で輸出プログラムが順守されているか、監視を強めるということでしょう。今回の件も、日本が輸出プログラムを監視していたからこそ、確認できたのです。

ところで、2年間にわたって牛の安全について議論してきたのに、一般消費者はともかく、報道に携わるマスコミが依然不勉強であることに、愕然とします。今日のテレビの報道番組でのこと。ペン米農務省次官が日米事務レベル協議で、「車を運転してスーパーに行き事故に遇う確率の方が、牛肉を食べてBSEにかかるよりも高い。米国はBSE感染牛が2頭なのに、日本は22頭」と発言したことに対して、待ってましたとばかりに反論していました。

「米国は全頭検査をしないから2頭しか見つからない。日本は全頭検査のお陰で22頭も見つかった」とは、私の見解。全頭検査をしていない英国で、18万頭ものBSE感染牛が確認されたことを知らないとは、驚くばかりです。

知らないというだけでなく、間違ったテレビ人の発言が、消費者の食への信頼を徐々損なっていることは確かなようです。

米国産牛肉輸入問題1

輸入された米国産牛肉から特定危険部位である脊柱が発見され、牛肉の米国からの輸入がストップしたというニュースに、1年ほど前に読んだ1冊の本を思い出した。「だから、アメリカの牛肉は危ない! 北米精肉産業恐怖の実態」(河出書房新社)である。悪趣味なタイトルが付いているが、社会学者が移民によって支えられる食肉産業の構造的な問題を掘り下げた内容。今回の輸入ストップという事態の背後に何があるのか、うかがえるように思える。

原著のタイトルは「Slaughterhouse Blues」。と畜場ブルースである。本の雰囲気をとてもよく映し出した良いタイトルだが、日本の編集者はこれでは売れないと考えたのだろう。扇情的なタイトルになった。たぶんそのために、BSE問題を落ち着いて考えたいと思うこのFOOD・SCIENCE読者のような方々は、この本には手を出さない。残念なことだ。

中身は、二人の社会学者が北米の農家や食肉処理場の現場を見て、聞き取り調査もして、地元の共同体などへの影響も丹念に調べたリポート。米国でも2004年に出版されている。「現地調査をしたうえで地理学的人類学的視点からマクロ・ミクロな分析を加えた」とある。

とりわけインパクトがあるのは、食肉処理場の様子と大きく影響を受ける地域コミュニティを描いた第5章から第9章である。移民が主たる労働力を担っており、管理側の米国人とは文化も言語も違う。使っているトイレからして違う。労働者のトイレは不潔極まりなく、管理者が一度も足を踏み入れていない証拠だと著者は書く。労働者と管理者のコミュニケーションは成り立たず、双方は互いに信頼しない。労働者の賃金は低く抑えられ、入れ替わりが激しく技能を身につける間もない。

米国では1906年、Chicagoの食肉処理場で働く移民たちを描いた「Jungle」という小説が出版された。この本を監修した山内一也氏の解説によれば、当時の大統領は最初、そこに書かれていた苛酷な労働条件、非衛生的な実態を信じなかったが、調査の結果事実であることを知り、食肉検査法などいくつかの法律を成立させた。「Jungle」は、今でも名作として高校の副読本などに利用されているという。

著者たちは、現在の食肉産業が30年ほど前から、このJungleの時代に戻ってきていると指摘する。地域に食肉処理場ができると、マイノリティ人口が増加し文化、言語が多様化し、犯罪やホームレスが増加するのだという。食肉産業の約8割が四大企業によって占められ、効率が優先し猛スピードで作業が行われ、労働者も「消費」されている。

この本を読むと、日本が要求する「輸入プログラム」の遵守が、実際に働く労働者にまで伝わり実行されるかどうか、はなはだ疑問になってくる。監修を務めた山内氏は、食品安全委員会プリオン専門調査会の委員も務め、特定危険部位の除去についての食肉処理場での監視の実態が不明であることに、最後まで疑問を投げかけていた。その姿勢は、このSlaughterhouseの原書を山内氏が見つけ、重要だと考え出版にまでこぎつけた事実と無縁ではないだろう。

日本の農水省厚労省は米国産牛肉の輸入再開に当たって、米国の施設を査察した。食品安全委員会は、結果報告なども公開して議論している。しかし、食肉処理場での生産管理は、マニュアルをつくったとか書類がそろっているなどの事実だけでは判断できない。労働者の環境、意識、技能、組織の中のコミュニケーションがどのようなものかが、大きくものを言うはずだが、そんなことは査察結果報告からは何も見えてこない。

今回問題となった脊柱付きの子牛肉の場合、米国内では普通に流通しだれもが抵抗なく食べているもの。一方、日本は輸入プログラムとして除去を要求していた。日本向けプログラムの遵守を、実際の作業に関わる労働者が知らず、監督者も知らず、そして検査官も知らなかったらしい。

日本だけ特別扱いをして別処理をするというのは労働者にとってはある意味、高度な作業だろうと思う。さて、脊柱付きの子牛肉をを処理し箱詰めした施設の労働環境はどうだったのだろうか? この企業の労働者に関する情報がないかと思いネットで探したが、残念ながら確かなものを見つけられなかった。

食品安全委員会は昨年11月、「輸入プログラムが遵守されると仮定すれば、米国産牛肉(カナダ産も含む)と国産牛肉のリスクの差は非常に小さい」と評価した。その結果を受けて、国は輸入にゴーサインを出した。これは、「科学的なリスク評価」を隠れ蓑にした政治決着だ。

誤解のないように言い添えると、私はこういう決着も仕方がない、と思っていた。日本のBSEリスク管理は過剰であり、米国程度のリスク管理で良いというのが、私の考えである。だから、脊柱付きの子牛肉が見つかったところで、別に食の安全がないがしろにされた、などとは考えない。

しかし、両国間で合意したルールはルール。遵守してもらわなければならない。そして、ルールを守ってもらうのは、日本人が考えるほど簡単なことではないだろう、と思う。

ライブドアショック


思わぬことが思わぬところで起きるのが歴史の妙、と言ってしまえばそれまでだが、何とも絶妙のタイミングで起きてくれたものである。

ライブドア証券取引法違反や粉飾疑惑、これを受けての東京証券取引所の一時機能停は、景気回復ムード溢れる浮かれニッポンのお屠蘇気分を吹き飛ばすのに十分だった。ライブドアの違法性は今後の捜査を待つとして、東証の機能停止は許されない。取引のできない取引所は水のないプールと同じで、存在理由を失う。日本の資本市場にまだ企業倫理、ルール、システムの「3つの未熟」が残っていると知らしめたのが、今回の事件の本質だ。

ライブドアへの強制捜査に一時市場は狼狽したが、日本経済にとってはその最も弱い部分を一刻も早く補正する警鐘ととらえる必要こそあれ、狼狽する理由は何もない。日本経済の立ち位置が今、どこにあるのか、それをまず見てみよう。

35年の成長期と失われた10年の停滞期、そして5年の調整期——。これが2005年まで「50年のあらまし」である。起点を1955年にとるのは、戦後10年の復興を経て政治の55年体制が確立、自立的な政策国家への歩みを始めたのがこの年だったからだ。

歴史的節目などと言う言葉は滅多にないという意味で本来、軽々しく使うべきではない。しかし2005年まで半世紀の時の流れを1つのまとまりと考えると、2006年を新たな時代の始まりとする見方はある納得性を持つ。我々はこれから新たな成長の歩みを始められるのだろうか。失われた10年に照らせば、2006年を起点に「黄金の10年」を迎えることができるのだろうか。

その可能性は大きい。実際、日本経済は2005年、新たな成長に向かうための「2つの安定」を得た。1つはバブル崩壊後一貫して停滞の元凶となってきた金融機関の不良債権処理が終結した。大手銀行の不良債権比率は2005年3月期に2.9%と、政府が金融再生プログラムを打ち出した2002年から半減、2006年3月期は1%台まで下がるのは確実で、収益が急回復している大手行は一斉に余力を公的資金の返済に振り向ける。

もう1つは政治的安定である。小泉自民党が圧勝した2005年9月の総選挙。与党絶対多数の結果には行き過ぎの感もあるが、世界的には日本の政治的安定を際立たせる結果となった。日本人は政治の安定はあって当たり前と考えがちだがこれは大きな誤りだ。世界各国が政治の安定を得るためにどれほどの労力と犠牲を払っていることか。今年も世界を見渡せば中間選挙を控えた米国がイラク問題など政治の不安定化懸念を抱え、欧州連合EU憲法の批准に失敗した欧州でも大連立を余儀なくされたドイツ新政権の脆弱さ、暴動拡大で一時非常事態宣言を出したフランスの混乱と、G7メンバーの中で今、日本の政治的安定が突出している。

こうした中で2006年、日本の経済界は1つの金字塔を見ることになる。トヨタ自動車の世界生産は2006年に前年から12%程度増えて830万台程度になる見通し。これにグループのダイハツ工業日野自動車を加えると920万台を上回るのは確実で、極端な販売不振から工場閉鎖を余儀なくされているゼネラル・モーターズ(2005年の予想世界生産台数912万台)を抜きトヨタグループが「自動車世界1」の座を奪取する公算が大きい。

これは文字通り歴史的出来事となる。産業革命からおよそ、ひと世紀をかけて英国が機械の大量生産を確立したのが19世紀半ば。その技術蓄積をもとに半世紀後の1908年に米フォードモーターが「T型フォード」で始めたのが自動車の大量生産だった。それからまたひと世紀を経て、いよいよ日本が世界の自動車産業を牽引する時代が来る。実際、今の自動車産業を見渡すとトヨタ日産自動車、ホンダを加えた「日本車ビッグ・スリー」の競争力は際立っている。こと自動車だけをとらえると、「黄金の10年」は不動のように思われる。

気になるのは製造大国ニッポンの復権で自動車と並び機関車役となるべき電機産業の復調遅れだ。

ニッポン電機の凋落はよく韓国サムスン電子の躍進と比較される。2004年度の11社の売上高合計は約50兆円。ところが純利益になると11社を合計しても3854億円しかなくサムスン1社の3分の1強に過ぎない。国内競争の消耗戦に終始してきたからだ。絶好調の自動車を筆頭に鉄鋼、化学、工作機械など製造業の多くのセクターが今年も好調を持続する見通しだが、電機の復活がなければモノ作りニッポンの黄金の10年はやってこない。電機業界では年明け早々、松下電器産業とシャープが薄型テレビ分野で1800−2000億円の新規国内生産投資を発表するなど、サムスンの巨額投資に触発される形で投資競争が活発になっている。投資競争の消耗戦は勝者と敗者の区分けをよりはっきりさせる。2006年はこれまで半導体などにとどまってきた事業統合の動きが他の製品分野に広がるだけでなく、M&A(企業の合併・買収)を含めた本格的な再編劇が起きる可能性が高い。

企業の投資競争は足下の景気にプラスに働く。電機を軸にする民間部門の旺盛な設備投資と輸出、堅調な個人消費に支えられ国内景気が2006年、基本的に拡大基調を保つことは間違いない。上場企業の2006年3月期の業績は増収増益のテンポこそ鈍るものの4期連続の増益を達成する見通しで、株価もライブドアショックを当面引きずる懸念はあるものの、基本的に年内の日経平均1万7千円超えをにらんで強含みで推移しそうだ。

以上を総合すると日本経済は2006年度にGDP国内総生産)で名目2%以上の成長率(2005年度の予想名目成長率1.6%)を達成する力が備わりつつある。2%という数字は50年の成長・停滞・調整期を経た成熟国家の成長率としてはかなり居心地のいい数値だ。小泉政権の中枢にいる竹中平蔵氏はこんな指摘をする。「年率2%成長というのは実は20世紀の米国経済の成長率と同じ水準。成熟した社会としては決して低い数字ではないし、仮にそれが35年続けば経済規模は倍になるのだから」。

日本経済2006年の見所は煎じ詰めれば「トヨタの世界1」と「名目2%成長」。前者は自動車が裾野の広い総合産業という意味で産業経済の総合力を示し、後者は国民経済の今の実力を示す。

金融、政治の2つの安定を土台に日本経済が「黄金の10年」への歩みを始められるかどうか。2006年、我々が「世界1」と「2%」の2つの風景を目撃できるかがまず、ポイントとなる。ライブドアショックブラックマンデーや過去の株価大暴落とは異質なものであり、それに必要以上に目を惑わされてはならない。

ライブドアとバイオベンチャー

粉飾決算が明るみに出た今となっては幾らでも批判できますが、プロ野球球団の買収やテレビ局買収で話題になっている会社がバイオ投資に関心を示していると聞いたときには、バイオ産業の活性化につながるのであればと少しは期待しました。ですが、その行動を振り返ると、ライブドアはバイオベンチャーマネーゲームのおもちゃにしたとしか言えません。

1つは昨年3月、上場初日に初値がつかないという失態を演じたエフェクター細胞研究所の主幹事を、ライブドアの子会社のライブドア証券が努めたことです。株価はあくまでも株式市場の参加者が決めることなので、高いか安いかを云々する立場ではありませんが、上場時の公募価格は最終的には主幹事証券会社と上場会社が協議の上で、決定されることになっています。主幹事にとっては公募価格が高ければ手数料収入が増えますが、公募価格割れを起こせば株主に損をさせるだけです。したがって、上場後に大幅な公募価格割れを引き起こすような公募価格を決定した責任は、ライブドア証券エフェクター細胞研究所にあると言っていいはずです。

もう1つはトランスジェニックを巡る一件です。昨年11月に、ライブドア証券はトランスジェニックの転換社債型新株予約権付社債MSCB)を引き受けるとともに、トランスジェニックの大株主から借株を実施しました。その後、借りた株を少しずつ売却して株価が下がったところでトランスジェニックとの提携を発表。それに反応して株価が急騰したタイミングで、トランスジェニックの社債を大量に株式に転換して市場で売却し、推定で10億円近い売却益を手にしたもようです。

ライブドアが関係した上場バイオ企業は知る限りこの2社ですが、株価への影響はほぼ全社におよび、16日の終値で678.91だったのが、17日には635.07、18日には581.33まで下落しました。19日にINDEXは610.87まで戻しましたが、20日現時点(13時30分)では全般的に軟調で、ライブドアショックの余波がどこまで広がるかは読めません。

一方で、ライブドア投資ファンドのロングライフバイオファンド投資事業組合を設立するなど、未上場バイオベンチャーへの投資にも積極的な姿勢を見せていました。ライブドア証券のバイオ担当者曰く「バイオに関心があるのは堀江(社長)」とのことで、バイオは言うなれば“社長プロジェクト”だったようです。実際、堀江社長東京大学理化学研究所などを訪問してレクチャーを受けていたそうです。ただ、それも今となっては金儲けに利用できるベンチャーを物色していただけのようにも思えてきますが……。

いずれにせよ、今回の出来事を受けて、投資ファンドの情報開示のあり方や、会計監査のあり方など、さまざまなところで制度の見直しが検討されることでしょう。その結果、投資の世界の透明性が高まるとすれば歓迎すべきことです。ただし、今回の事態で投資マインドが冷え込まないか、少し心配です。特に、上場バイオベンチャーの株価への影響自体は限定的なものにとどまるかもしれませんが、証券取引所ベンチャー企業に対する見方がさらに厳しくなるなどして、上場予備軍のバイオベンチャーの経営に影響が出ないかどうかは、大いに気になるところです。

今回の一件から、バイオベンチャーサイドとしては、資金調達先の選定には慎重を期すべきという教訓を得たといえるでしょう。出資を受けるにも、社債を引き受けてもらうにも、相手によってはマネーゲームに巻き込まれ兼ねないわけです。お金にはやはり、“色”があったということでしょう。

それにしてもひどいよね。。。