コンサルタントについて

世の中には,コンサルタントと呼ばれている人がたくさんいます。経営コンサルタント,建設コンサルタント,ブライダル・コンサルタント,カラー・コンサルタント…。コンサルティングは,クライアント(コンサルティングの依頼者のこと。クライアント・パソコンではありません)がいれば成立するので,非常に原始的で素朴な仕事だといえます。

「わからない」と認めたくない

では,なぜクライアントは高い報酬を支払ってまでコンサルタントを雇うのでしょうか? それは,クライアントが,自分では決めかねている,あるいは解決できない重大な問題を持っているからです。複雑な状況に対処し切れずに混乱しているので,相談相手になってくれる人を求めるのです。人間はおもしろいもので,わからないという事実を認めたくないものです。そして,そこに心理的な落とし穴があります。自分に都合の悪いことは,あいまいにしておきたい誘惑に負けてしまう。


「わからない」を「わかる」に変えるには

コンサルタントは,わからないことに真正面から取り組まなければなりません。例えば,システム開発のケースで考えると,クライアント自身が,どんなシステムを開発したいのか,何の効果を期待しているのか,わからないことが多いようです(プログラマに対して,決してそんなことを言いませんが…)。わからないまま,とりあえず開発を始めてしまうから,出来上がってから,こんなはずじゃなかったと,仕様変更が多発してしまうのです。

そんな悲しい結果にならないようにコンサルタントは,まずクライアントに,わかっていることと,わからないことを区別させます。そして,わからないことのうち,重要な部分についてわからせようと努力します。コンサルタントは,わからないことを,わかるに変えるためにいくつかのノウハウを持っています。それを紹介しましょう。

(1)わからないことをハッキリさせる
バカバカしいと言えば,バカバカしいノウハウですね。でも,重要なんです。クライアントに対して,「あなたは,○○をわかっていない」と言わなければ,コンサルティングはスタートしません。顧客であるクライアントに「あなたは,バカだ」に近いことを言うわけですから辛いですし,プレッシャーも感じます。

しかし,クライアントとコンサルタントの共通目標をハッキリさせ,運命共同体であることを確認するためには不可欠なアクションです(儀式と言えるかもしれません)。もちろん,コンサルタント自身も,解決策がまだわかっていないのですから,一緒にスタート地点に立ったにすぎません。

(2)わからないことを分解し,定義する
わからないことは,たとえ一言であっても,一般に複雑であり,交錯しています。例えば,電機部品の卸売業のシステム部長から次のような相談を受けたとします。

システム部長:社長からホームページのアクセス数が少ないとの指摘を受け,その改善策を考えなければなりません。私は,システム・エンジニア経験は長いのですが,コンテンツや広告宣伝の知識はあまりありません。アクセス数を増やすにはコンテンツの充実が必須と考えています。この方向で良いのでしょうか?

あなたは何と答えますか。効果がありそうな方法をいくつか考えて,並べ始めるかもしれません。しかし,コンサルタントはその前にクライアントに次のような質問をして,わからないことを徹底的に明確にしていきます。

コンサルタント:アクセス数とは何でしょう。ホームページのトップ・ページに来た人の数でしょうか? それとも,その先にある商品紹介や会社概要まで見た人の数ですか? それとも,ホームページ内に3分以上留まった人の数ですか? 次に,アクセス数が多いという状態はどういうことですか。1日に1000人以上の人が来訪することでしょうか? それとも,ライバル会社よりもアクセスする人が多いということでしょうか? 次に,なぜアクセスが少ないとわかったのでしょうか,自分で調べたのでしょうか,調査会社に委託したのですか,その数値の信頼性はあるのでしょうか? 次に,アクセス数が増えるだけでよいのでしょうか,その後に何か期待していませんか? インターネット経由の売上額増大など,本当に欲しいものはほかにあるのではないでしょうか? そのためには,アクセス数が単に多いのではなく,見込み客のアクセス数を増やさねばならないのではないですか?

など,クライアントが「勘弁してくれー。そこまでは考えていなかった」と言うまで質問ぜめにします。何がわからないことかがハッキリしないと,解決策がぼんやりしたものになり,結果が出ないからです。また,考え出した解決策を実施した後に,効果的だったのかどうかを評価するのも,あいまいになってしまいます。

(3)アイデアをとにかく多く出す
わからないことがハッキリしたら,次は解決策の候補をできるだけ,たくさん出します。ホームページのアクセス数の例で言えば,(1)サーチ・エンジンに引っかかりやすい言葉(よくサーチされる言葉)をホームページ内のどこかに入れる。(2)リンク集などに自社のホームページのURLを入れてもらう。そのために相互リンクを張る。(3)ユーザーを目線を引くコンテンツを入れる。メール・マガジンを始める。動画配信を入れてみる。(4)懸賞やプレゼントなどのインセンティブをつける。(5)営業担当者が得意先を訪問した際にホームページを見てくれるように依頼する。(6)紙の商品カタログの構成を変えてホームページに誘導しやすくする。(7)サーチ・エンジンにバナー広告を載せる。(8)テレビ・ラジオ・雑誌・店舗内放送の宣伝でURLを強調する。(9)期間限定の激安・原価割れの販売をホームページ上でする。(10)ホームページで会員登録をしてもらい,会員にはメールでホームページを見たら得をすることを定期的に訴える,…などです。

私は100という数字にこだわりを持っています。解決策も100個は考えたいですね。少なくとも20〜30個は出したいところです。解決策の「候補」を考えるときには,それが実現可能かどうかは,いっさい考慮しません。荒唐無稽であろうと,無茶苦茶であろうと気にしません。数をひたすら求めます。ここがコンサルタントのがんばりどころです。

(4)アイデアを三つ程度に絞る
イデアがたくさん出たら,わからないことと,アイデアのベストな組み合わせを考えます。

ここまで読んでいただいてわかるように,コンサルタントの仕事って,とっても地味なものなんです。スーパーマンが目の前の問題をズバッと解決する,なんてなことは,まずありません。地道にコツコツやっていくだけです。ただし,問題解決のために考え出すアイデアの量は,素人が考えるよりもはるかに多く,それがコンサルタントの腕の見せ所になっているわけです。