全世界のがん死の3分の1は日常生活の中で予防可能、最大の危険因子は喫煙

がん治療法は進歩しているが、いまだに他の慢性疾患に対する治療ほど、死亡率を減少させることはできていない。また、有効なスクリーニング法が存在するのは、一部のがんのみだ。したがって、生活や環境の改善を通じた一次予防が、がん死の抑制には重要と考えられる。米Harvard大学のGoodarz Danaei氏らは、全世界および地域的ながん死に対する特定の危険因子の影響を調べた。その結果、がん死に対する寄与度が特に高いのは、喫煙、飲酒、野菜果物の低摂取であることが明らかになった。詳細はLancet誌2005年11月19日号に報告された。

著者らは、2001年に全世界で発生した12種類のがん(口腔・中咽頭がん食道がん胃がん、大腸がん、肝臓がん、膵臓がん、肺がん、乳がん、子宮頸がん、子宮体がん、膀胱がん、白血病)による死に対する、修正可能な危険因子9種(過体重または肥満、野菜果物の低摂取、運動不足、喫煙、飲酒、危険な性行為、都市部の大気汚染、固形燃料の使用による屋内の煤煙、医療現場における汚染された注射器の使用)の影響を調べた。個々の危険因子について、論文、政府の調査報告書、国際的なデータベースなどを包括的かつ系統的に調べて、暴露レベルと相対リスク(RR)に関するデータを収集。データの再分析や疫学研究の結果のメタ分析も実施し、個々の、または、複数の危険因子の、がん死に対する人口寄与割合を推算した。

2001年には、全世界で700万人ががんで死亡していた。9種の危険因子は、35%に相当する243万人(男性160万人、女性83万人)の死に関与していた。うち、76万人は高所得国、167万は低・中所得国の国民だった。低・中所得国の中では、欧州と中央アジアの住民の割合が最も高かった(39%)。

全世界および低・中所得国で、がん死の主な危険因子は、喫煙、飲酒、野菜果物の低摂取だった。高所得国では、喫煙、飲酒、過体重および肥満が、がんの主な原因だった。性行為を介したヒト・パピローマ・ウイルスの感染は、スクリーニングが十分に行われていない低・中所得国の女性の子宮頸がんの主な危険因子だった。

危険因子の人口寄与割合が最も高かったのは子宮頸がん(100%)で、性行為を介したHPVの感染と喫煙ががん死を引き起こしていた。第2位は肺がん(74%)、第3位は食道がん(65%)。これらのがんによる死亡には、喫煙、飲酒、野菜果物の低摂取が大きく影響していた。一方、人口寄与割合が低かったのは、大腸がん(13%)と白血病(9%)。

危険因子別に見ると、喫煙は全世界のガン死の21%、飲酒および野菜果物の低摂取は、それぞれ5%の原因と推算された。

著者らは、前立腺がん、腎臓がん、メラノーマ、リンパ腫についても評価を試みたが、どの危険因子の関与も示せなかったという。また、既存のデータから暴露の程度を推測することが難しかった、職業暴露と、Helicobacter pylori感染、紫外線の暴露、間接喫煙は、今回は分析に加えられていない。

得られた結果は、日常生活の中で危険因子への暴露を減らせば、世界的ながん死の少なくとも3分の1は予防できる可能性を示した。

本論文の原題は「Causes of cancer in the world: comparative risk assessment of nine behavioural and environmental risk factors」


注)危険因子の人口寄与割合:集団中に発生した疾病または死亡のうち、どの程度の割合が、ある危険因子への暴露によって生じたかを示すもの。言い換えれば、その危険因子への暴露を避ければ抑制可能な疾病または死亡の割合を示す。