Windows Vista

2005年9月に開催された米Microsoftの開発者向けカンファレンス「Professional Developers Conference (PDC) 2005」の2日前に,筆者はMicrosoftが開発している「Windows Vista」の各製品種別に関する内部情報を独自に入手した。この資料に加えて最新の取材を基に,Windows Vistaの各製品種別に搭載される機能の違いを比較してみようと思う。

Windows Vistaには,大きく分けて「家庭向け」「企業向け」という2つの製品カテゴリが存在する。この構成は,現行のWindows XPとほぼ同じである。家庭向けのWindows XPとは,「Home Edition」「Starter」「Media Center Edition」の3製品であり,企業向けWindows XPとは「Professional」「Professional x64」「Tablet PC Edition」の3製品である。Windows Vistaでは,家庭向けは「Home」,企業向けは「Business」と呼称される。

家庭向けWindows Vistaは,「Windows Starter 2007」,「Windows Vista Home Basic」(およびヨーロッパ市場向けの「Home Basic N」),「Windows Vista Home Premium」,「Windows Vista Ultimate」の4種類である。

企業向けWindows Vistaは,「Windows Vista Business」(ヨーロッパ市場向けの「Business N」)と「Windows Vista Enterprise」の2種類である。

このように,Windows Vistaには6種類の製品が予定されている。各製品の詳細について,説明していこう。

Windows Starter 2007

低価格PCの購買層である新興成長市場でのみ販売される,初心者ユーザー向けの製品。Windows XPと同様に,Windows Starter 2007(「Windows Vista」ブランドが付かない点に注意)は「Vista Home Basic」のサブセットであり,32ビット版のみが出荷される(64ビットのx64版は用意されない)。

Starter 2007では,同時に実行可能なアプリケーション(ウインドウ)が最大3つに制限されている。またインターネットには接続できるが,ほかのPCからのネットワーク接続は受け付けない。ログオン・パスワードは不要であり,「ユーザーの簡易切り替え機能」も提供されない。Starter 2007はWindows XPの「Starter Edition」相当の製品である。

Windows Starter 2007には,Vistaのほかのバージョンが提供する独自の機能の多くが省かれている。例えば 「Aero」ユーザー・インターフェースは用意されていないし,Microsoftが計画している新しい「ドメイン」に似たホーム・ネットワーキング機能にも対応しない。ほかにもDVDのオーサリング機能,一般的なゲーム・コントローラのサポート,そして従来よりも強化された画像修正機能を持つ画像編集ソフトなどが省かれている。

Windows Vista Home Basic

家庭におけるスタンドアロン用途向けのWindows VistaWindows Vistaの基準となるバージョンであり,ほかのすべてのバージョンはこのバージョンをベースに構築される。Windowsファイアウオール,Windowsセキュリティ・センター,セキュアなワイヤレス・ネットワーク機能,ペアレンタル・コントロール(親が子供のパソコン利用を制限する機能),アンチスパム/アンチウイルス/アンチスパイウエア機能,ネットワーク・マップ,Windowsサーチ,Movie Maker,Photo Library,Windows Media PlayerRSSをサポートするOutlook Expressなどが実装される予定である。

Windows Vista Home Basicは,「Windows XP Home Edition」に相当するものと考えてよいだろう。このバージョンは一般的な消費者,Windows 9x/XP Starter Editionからのアップグレード・ユーザー,価格に敏感な消費者,1台目のPCの購入者をターゲットにしている。Starter 2007と同様,Vista Home Basicも新しい「Aero」ユーザー・インターフェースを備えていない。


Windows Vista Home Premium

家庭でのエンターテインメント,および家や出先で要求されるパーソナル・コンピューティングのすべてに対応可能なエディション。Windows Vista Home Premiumは「Home Basic」のスーパーセットであり,「Home Basic」,「Media Center」や「Media Center Extender」の機能を併せ持っている。

DVDビデオのオーサリング,HDTV(高精細テレビ)のサポート,タブレットPCの機能,Mobility Centerおよびその他のモビリティ/プレゼンテーション機能,補助ディスプレイのサポート,P2Pアドホック・ミーティング機能,無線LANの自動設定およびローミング機能,複数のPCで有効な統合ペアレンタル・コントロール,ネットワーク上の共有フォルダへのバックアップ機能,インターネット経由のファイル共有,オフライン・フォルダ,複数のPC間のデータ同期,Sync Managers(携帯機器との同期機能),および家庭向けのWindows Server 2003 R2ベースのサーバー製品である「Quattro Home Server」のサポートが機能として実装される。

Windows Vista Home Premiumは「Windows XP Media Center Edition」に対応する製品であるが,含まれる特徴および機能ははるかに多く,またタブレットPCもサポートしている。私はWindows Vistaの製品種別の中ではこれが最も売れるのではないかと予想している(現在最も売れているのはWindows XP Professionalである )。このバージョンはPCマニア,自宅で複数のPCを使用するユーザー,子供のいる家庭,そしてノートPCのユーザーをターゲットにしたものである。

Windows Vista Business

あらゆる規模のビジネスに対応する,強力で,信頼度が高く,セキュアなOS。Windows Vista Businessはドメインの統合および管理機能,Microsoft以外のネットワーク(NetWareSNMPなど)との互換性,リモート・デスクトップ,Microsoft Windows Web Server(IISの次期バージョン),および暗号化ファイル・システム(EFS)などの機能を備えている。Vista BusinessはさらにタブレットPCの機能も備えている。Windows Vista Businessは現在の「Windows XP Professional」とほぼ同等の機能を持つ。このバージョンはビジネスの意思決定者,ITマネージャなどあらゆる用途に対応する。

Windows Vista Enterprise

このバージョンは企業向けに最適化されており,「Windows Vista Business」のスーパーセットとなる。Virtual PC,多言語ユーザー・インターフェース(MUI),Secure Startupおよびハードディスク全体の暗号化などのセキュリティ・テクノロジは,このバージョン独自の機能である。Windows XPには,これに相当する製品バージョンは存在しない。このバージョンはビジネスの意思決定者,IT管理者および意思決定者,情報処理作業スタッフおよび一般的なビジネス・ユーザー向けである。Vista Enterpriseはソフトウエア・アシュアランス契約を締結した企業にのみ提供される。

Windows Vista Ultimate

これまで世に出たPC用OSの最高峰。Windows Vista Ultimateは「Vista Home Premium」および「Vista Business」の両方のスーパーセットであり,この両製品バージョンのすべての機能を持つ。さらにゲーム環境を統合した「Game Performance Tweaker」,Podcast作成ユーティリティ(検討中であり,実際には実装されない可能性もある),そしてオンラインの「クラブ」サービス(購入者のみ利用可能な音楽およびムービー,サービスおよび優先カスタマー・ケア)などの機能を提供予定である(他にもいくつかあるようだが実装されない可能性が高い)。

Microsoftはこの最高峰のWindowsリリースの位置付けをまだ検討中であり,このVista Ultimateのオーナーには,「A1サブスクリプション」,音楽およびムービーの無償ダウンロード, (マルチメディア版「お気に入り」と言うべき)Online Spotlightおよびエンターテインメント・ソフトウエア,優先的な製品サポート,カスタム・テーマなどのサービスの提供を検討している。現時点ではVista Ultimateに匹敵するOSは存在しない。このバージョンのターゲットはハイエンドのPCユーザーおよびテクノロジ・リーダー,ゲーマー,デジタル・メディア・マニア,そして学生である。

「N」エディション

最後に,Microsoft独占禁止法の要件を満たすための「N」エディションと呼ばれるWindows Vista製品をヨーロッパ市場向けに提供予定であることに触れておく。Windows Vistaの「N」エディションには「Vista Home N」と「Vista Business N」の2種類があり,それぞれ「Vista Home Basic」と「Vista Business」に相当するが,Windows Media Playerおよびその他のメディア関連機能が省かれている。

Microsoftの内部文書によれば,Windows Vistaにおける製品種別の多様化の目的は,すべてのカスタマー・セグメントに対する「明確な価値の提示」を行うことと,Media CenterやTablet PCの機能などWindows XP時代の革新的な技術をメイン・ストリームに取り込むことである。Windows Vistaはまた,x64プラットフォームへの移行のための製品としても位置付けられている。Microsoft はほとんどすべてのWindows Vistaについて,x86(32ビット)およびx64(64ビット)バージョンを提供しており,Windows Vistaのリリース後は,クライアント製品ラインのx64バージョンへの完全な移行を目論んでいる。

ここで気になるのは,MicrosoftWindowsの製品ラインをどこまで拡大するつもりなのかということだろう。Officeファミリ製品には様々なエディションが用意されているが,これは一般消費者および企業を混乱に陥れる原因となっており,決してよい販売政策とは言えない。Windows Vistaコンポーネント化が,企業とそのパートナであるPCメーカーが様々な製品バージョンを即座に作ることを容易にするためのものだとしたら,このような状況は歓迎されない。

Windows Vistaのバージョンが多数存在することは消費者により大きな混乱をもたらす。またその中にある「隙間市場向け」のバージョンは,その事実が明らかになった時点で顧みられなくなるだろう。そしてアップグレードのときには製品バージョン間の移行に関する混乱が待ち受けている。